ちょこれいと本舗
ここはちょこさんと猫さんの経営するお店です。
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うずまき上忍の困った恋人
以前、ちょこさんに献上した19歳オトナル。
作成者 猫
うずまき上忍の困った恋人
大通りを歩く、金色の青年の姿があった。人の目を惹きつける金糸が、さらさらと風に靡くたびに、縫いとめられたように通行人の視線が集まる。
「えっらい美人な忍だな・・・女か?」
「や。ありゃ、男だよ」
旅行者の男が呆けたように見惚れて、団子屋の店の主人が苦笑して説明する。
「彼はうちの里きっての、優秀な忍ですよお客さん」
まるで自分の息子の自慢話を始めるように語りだした店主に、旅行者の男は「へぇ」とか「はぁ」とか夢現に生返事をして、どこか典雅な雰囲気を漂わす青年の後姿を魂を抜かれたように追い掛けた。
「うずまき上忍!」
しなやかな体躯。すらりと伸びた手足。かの四代目火影を彷彿とさせるようでいて中性的な雰囲気を漂わす青年。
十五歳を過ぎた頃からナルトは蛹が蝶へと羽化するように美しくなった。それに伴い忍としての才能もぐんぐんと伸び、彼は若干19歳で里の核を担う上忍へと成長した。今ではナルトを九尾の器として見るものはほとんどいない。
彼の歩く姿を見て、里の過去を知る者は、懐古と、かの人から受け継がれた美しさに息を呑む。もちろん、青年の今しか知らない若者も、金色の色香に誘われるように魅せられた。
「この間の任務の時はフォローしてくださってありがとうございました!あの、あたしのこと覚えていらっしゃいますか?」
うら若い女の声が金色の青年に掛けられる。造作のきめ細かい顔立ちは、今では若いくの一や一般人の女性の注目の的であった。
その日も、ナルトはあっという間にくの一集団に包囲される。
その中の一人が、数日前の任務の補助をしていた中忍のくの一だと思い出す。
敵の奇襲にあった時にミスをした彼女を助けた覚えがあった。
「この間の怪我はもう治ったってば?」
「はい!うずまき上忍がくださった傷薬をつけたらすっかり良くなりました!」
「そ?よかった」
ナルトはおもむろにくの一の手を持つ。「きゃー」とか「ずるーい」とか黄色い喚声が後ろの方から聞こえて、憧れの上忍とのスキンシップに中忍くの一の頬が真っ赤に染まる。
「うん、だいぶ治ってるってば」
淡く微笑した青年に、その場にいた全員が見惚れたように顔を赤くさせた。
「でも、あれからもいろんな任務で擦り傷が耐えなくって。女の子なのに恥ずかしいな。うずまき上忍の傷ひとつない肌がうらやましいです」
ナルトの肌に傷が残らないのは九尾の力のせいだ。だけどそのことを知らない世代にとっては傷ひとつないナルトの肌は賞賛の的でしかない。
ナルトは複雑な気持ちで、自分よりも若い忍に出来た小さな傷たちを撫でる。
「そんなことないってばよ?」
「え?」
「これはきみが忍としてがんばった証だってばよ?オレのよく知ってる女の子も身体にたくさん細かい傷があるけど、オレはそれを素敵だと思うし、それだけ里のためにがんばって仲間を守った証だから、誇るべき点だと思うってば」
「・・・・・・・・」
「この傷の分だけがんばったんだってばね、えらいってばよ」
はんなりと微笑んだ青年に、手を握られたままのくの一はお得意のお喋りをすることも忘れて、ほうっと見惚れる。
「ナルトさま・・・・素敵」
「〝さま〟ってば!?」
ぽーと瞳をハートにさせたくの一に、ナルトが引き気味に後ずさりする。そんなナルトにくの一たちが群がる。
「あのっ、あたしお菓子をつくってきたんです。よければどうぞ!」
「あー、ずるーい。あんた抜け駆けするんぢゃないわよ」
「うずまき上忍。そんな子たちのお菓子なんか貰わないでー。おなか壊しちゃいますよ!」
「ちょっと、それってどういう意味よ!あんたたちこそ横からしゃしゃりでてくるんぢゃないわよ」
「ふん、自分ばっかりかわいこぶってアピールするなんてやり方が卑怯なのよ」
「なんですってぇこんの性格ブス!」
「ああ、落ち着いてってば?」
また小鳥のように騒ぎ出したくの一たちにナルトは仲裁に入ろうとするが収まるわけもなく、
「うずまき!」
同僚の上忍から掛かった声にこれ幸いと、くの一集団の中から抜け出した。
「なんだってば?」
「今度の任務のことなんだけど、今いいか?」
「ん?なんか不備があったってば?」
「いや、おまえこの間、警護したお姫さんにえらく気に入られていただろ。うずまきナルトを名指してご指名だそうだぞ。よ、女たらし!」
ナルトよりだいガタイのいい上忍にバシンと強く背中を叩かれて、華奢なナルトの身体がよろける。
「ええええ、うずまき上忍それって本当ですか!?やだー、お姫さまと結婚して忍を止めちゃわないでぇ」
くの一たちから、きゃーと声が上がって、ナルトと同僚が苦笑して顔を見合す。
「ははは。そのお姫さまはまだ六歳だってばよ?」
「なぁんだ。びっくりさせないでくださいよー」
「まぁ、てめぇの場合はその年齢差に笑えねぇけどな」
同僚のからかうような言い草にナルトは、にが笑う。そんな上忍たちの様子にまだ年若い中忍のくの一たちが???と首を傾げたところで、ヒューロロロと伝令用の鳥が跳んできて、同僚が「わり、また今度な」と去っていく。
「んじゃ、オレもこれで・・・」
「えーうずまき上忍もう行っちゃうんですか」
ナルトの忍服を引っ張り、甘えた仕草を見せるくの一に、ナルトはふっと笑う。
「今日は今から用事があるんだってばよ。だから勘弁な?」
額縁に飾っておきたくなるほど綺麗に微笑した青年に、文句を言える者がいるはずもなく、全員が胸の前で手を合わせて、頬を染める。
「あ、喧嘩はよくないってばよ?」
「は、はい!!」
「ん、みんな仲良くだってばよ?」
それじゃあ、と片手を振りながら去っていた、〝月華の君〟に一斉に感嘆のため息が漏らされる。
「素敵よねぇ・・・・うずまき上忍」
「本当。周りの男どもも少しは見習って欲しいわぁ」
「なんで彼女がいないのかしら?容姿良し、性格良し、その上、女の子にも優しくて、ちっとも偉ぶったとことか嫌味なとこがないし。上忍でしょ」
「それに普段はあんなに明るい方なのに、時々ちょっと憂いた表情をしている時なんか最高よね!」
「そうそう、そのギャップがたまらないわよね!いったい何を考えてるのかしら、気になるー!」
拳を握る女の子たち。恋する乙女とはいつの時代もパワフルだ。
「ああ、アタシが彼女に立候補したーい!」
「アタシもー!」
だけど黄色い声を上げるくの一集団に、一石を投じる声。
「ちょっと、あんたたち、うずまき上忍のあの噂、知らないの?」
「え、なになになに!?」
「遅れてるわねー、うずまき上忍といえば」
訳知り顔の、くの一の1人が声を潜め、乙女たちが揃って顔を合わせたところで、
「きみたち、随分と楽しそうな話してるねぇ」
妙に間延びした声が掛かった。あとに彼女たちはAランク任務だってあれほど恐ろしい目に合わなかったと語るのだけど。
「サクラちゃーん、お待たせだってばよ!」
「おっそーい。あんた、遅刻魔の人とあんまり長く一緒に居すぎて遅刻癖うつったんぢゃないの?」
「あはは。相変わらずきついってばよサクラちゃん。いや、それがさぁ途中で、中忍の女の子たちに掴まっちゃって。最近の子たちはパワフルだってばね!」
にこにこと笑うナルトの手元にはちゃっかり綺麗にラッピングされたクッキーがあって「天然たらし・・・・」とサクラはぼそっと呟く。
「ん?なんか言ったってば、サクラちゃん?」
「なんでもないわよ―――ほーんと、まさかあのちんちくりんだったアンタが今ぢゃサスケくんと並ぶほどのモテるようになるとはねぇ」
サクラは自分よりずっと背の高くなった相手を見上げて、まぶしそうに目を細める。〝オレのよく知っている女の子〟春野サクラ。誰よりも・・・ただ一人を除いては誰よりも近くでナルトを見てきた彼女だからこそ・・・
「生意気だわ」
ぐにーと端正な顔立ちの青年の頬を引っ張る。先程の女の子たちが見たら、悲鳴を上げそうな光景である。
「いてて。サクラちゃん、酷いってばよ」
女の子にされるがままになっているその仕草すらも絵になってしまって・・・―――まことに気に食わない。
「それよりあんた最近・・・」
里内でも一際目立つ青年はすぐに噂の的となる。意味ありげにサクラが視線を送ると、
「・・・・気付かれちゃったてば?オレってばすげー深刻な悩み事があってさ」
ナルトは沈痛そうな憂いた顔でサクラを見つめる。百人中百人を落としそうな美人だ。しかし彼と付き合いの長い彼女はいわゆる月華の君の本性を知っているのである。この見てくれに騙されてはけしていけない。なぜなら彼はうずまきナルトだからである。
「言って見なさいよ」
片眉をあげてサクラが即すと、
「サクラちゃん、最近、スーパーでサンマがすげー高いの!」
吐き出された言葉は案の定。
「・・・・あんたねえ」
「だって、だってばよ!信じられないってば二匹で✖✖✖両だってばよ!」
うずまきナルト。見掛けと中身の詐欺師である。
「無駄にいい顔でんなこと考えんな!」
地面に拳が落とされて、ナルトがハハハと笑って降伏のポーズを取る。
「だいたい、どっちもいやってほど稼いでいるんだから、節約することないぢゃない!」
「いやいやいや、それとこれとは別問題だってばよ」
真面目な顔で応える青年にサクラは軽くため息を吐いて、伝えなければいけない用件を思い出す。
「―――帰ってきたわよ」
「・・・・―――」
ただそれだけの言葉で、ナルトを纏っていた雰囲気が変わった。揺らめくようにまつ毛が数度、伏せられて、女のサクラの目から見ても、綺麗だと思う。
「ごめんサクラちゃん、甘栗甘はまた今度」
「まったく。ああいうところは昔からちっとも変わってないんだから」
音もなく、ふわりと跳躍した青年をサクラはクスクス笑って見送る。いい男が二人も失われるのはしのびないわね、と思いつつ。
あの人のアパートへと続く道を掛けて、だけどナルトがぴくりと何かの気配を感じて立ち止まった。
そこは木の葉の里に点在する小さな森の中のような場所で、別称は忍者の通り道とも呼ばれる森だ。
「カカシ先生?」
虚空に向かって呟けば、木の葉が舞って、銀色の大人が現れる。うしろから抱き締められて、ナルトは精一杯首をひねってカカシを振り仰ぐ。
「ただいま、ナルト・・・二週間ぶりだねぇ」
「おかえりってばよ、カカシせんせぇ」
弄ばれるように、髪をいじられて、久し振りの大人の体温にナルトは赤面する。
「オレのいない間に浮気しなかった?」
「するわけないってばよ・・・カカシ先生ってばそれってスゲー失礼」
「くの一の女の子がね、おまえの憂いた顔が素敵だってさー、モテモテだよねぇおまえ」
「・・・・なにそれ」
久し振りの逢瀬だというのに、グチグチと嫌味を言ってくる大人に、ナルトは半眼になる。
「バカ!」
カカシの頬にぺちんと平手。しかも両手である。
「カカシ先生のことばっか、考えてたに決まってんぢゃん!」
食べることも、すべてがカカシ先生に繋がって、どれだけオレの心を占めれば気が済むのだろうこの人は。
それだけでも悔しいのに、まだ足りないという大人が信じられなかった。
「先生がいないのについくせで二匹サンマ焼いちゃうくらいなのに!カカシ先生ってばすげーわがまま!」
先程のくの一や同僚に見せていた大人びた表情はどこへやら、ナルトは感情を剥き出しにして、カカシに食って掛かっている。あまつさえ、むくれて頬を膨らます始末で、カカシの首に腕を回し、子供だった頃より近くなった大人の顔に自ら唇を寄せる。
「おまえねぇ、どーせ積極的になるなら口布くらいとってキスしなさいよぉ」
「う、うっせーってば」
「サンマ、二匹買っちゃったの?」
「・・・・うー」
「おまえって上忍になっても抜けてるねぇ。まさかごはんも二人分つくっちゃったとか・・・?」
「き、きのうはついぼーっとして・・・べつに毎回んな失敗しないってばよ」
「オレのこと、考えてたら上の空になっちゃった?」
「!!!!」
口布を下ろしつつ、ニヤニヤ笑う大人の顔はもう確信犯の笑み。ああ、カカシ先生が最近、エロ親父に見えてくるってば。本人が聞いたら、お仕置きという名のあんなことやそんなことをされそうなことを思いつつ、だけど幾つになっても、きっとこの人には叶わないのだろうなと思う。
「まだまだだねぇ、おまえも」
「うっせぇの・・・」
カカシはいつだって、ナルトにとって導き手であり、背中を押してくれる人であり、絶対、な人。
ナルトの初めてで、最後の人。
「・・・・ちゅ、ん・・・・」
「ん・・・上手いよナルト」
口布を下ろしたカカシに、ナルトが舌を絡める。金糸を指に絡めて遊んでいる大人に褒められれば、ナルトは角度を変えて、より深いキスを送る。
下忍の頃からでは考えられないこんな行動も、ナルト曰く「スキンシップ大魔神」である年上の恋人に七年に渡って愛でられた成果というべきか。
だけど、
「んんんんっ・・・・」
カカシをリードしていたはずのナルトが、悲鳴を上げる。年下の恋人のキスを大人しく(しかし奉仕されるのが当たり前の顔で)受けていた大人が、いきなり覆い被さってきたからである。
羞恥交じりのナルトの拙いキスとは違う、性技に長けたそれ。大人の舌の動きにナルトはあっという間に翻弄されて、形勢逆転である。
「ん・・・っ、く」
人様が聞いたら赤面してしまうような淫猥な音が人通りの少ない森の中に響く。抵抗しようとした腕をあっさり掴まれ、ナルトは木の葉の落ちている柔らかい地面に押し倒される。華奢な青年を組み敷く大人は、満足気な笑みを浮かべ自分の下で恥ずかしそうに眉を顰める青年を見下ろす。
「カカシせんせぇ、ここ外・・・」
「二週間ぶりにおまえにさわるんだよ、我慢できるわけないでしょ?」
「カカシせんせぇ・・・・」
舌ッ足らずに、懇願するように見上げる碧玉はカカシを煽るものでしかなくて、首筋を強く据われて、ナルトの白い頤が震える。
「がっつくなってばぁ・・・・オレは逃げねーっての」
「だめ、待てない」
低く色っぽい声で囁かれる。好きな人に求められて、うれしくないわけがない。ベストを捲って侵入してきた腕にイケナイ気分になっていると、かさと包装紙がひゃげる音。
「あ!」
ナルトが声を上げる。
「待っててばっ」
「ん~?」
ナルトが腕を精一杯突っ張ってカカシを引き剥がす。
「なんで?」
「もらったクッキー。ぐしゃぐしゃになっちゃう・・・・」
焦ったように言ったナルトに、カカシは物の見事に半眼になった。
「誰に貰ったの?」
「え・・・・?中忍の女子たちにだけど・・・」
「・・・・ヘぇ、女の子に」
「せっかくつくってくれたのにまだ一口も食べてない」
「手作りねぇ・・・」
「カカシ先生も一緒に食べるってば?」
「―――いや、遠慮しておくよ」
ナルトの首筋に舌を這わしながら、カカシはわざと体重を掛けてナルトに圧し掛かる。
「ダメ、ってば。どけって、カカシせんせぇ」
じたばたとナルトがカカシの下で暴れ始める。カカシはなんとも美しく成長した年下の恋人に目を細める。綺麗に育ってくれちゃってと、この先もずっとカカシを魅了してやまないだろう金色にぺろりと舌なめずりをして、天然無自覚の色香を振り撒いて人を魅了する恋人を腕の中に閉じ込める。
「カカシ先生ィ」
だけど、どんなに人がこの子に近付こうとも、この子のあまやかな声を聞くのは、そう自分だけの特権。
潤んだ碧い瞳はカカシだけのもの。
そのあとナルトは、カカシの自宅にまでお持ち帰りされて。
もちろん貰ったクッキーは粉々になっていて、食べられたものではなくなっていた。
「えええええ、カカシ上忍とうずまき上忍が!があん、ショック!」
アカデミーの任務受け付け所でくの一たちが情報交換という名の井戸端会議をしている。そこに、若干背中に影を背負った先日のくの一集団がやってきた。
「ねぇ今話してたことってカカシ上忍とうずまき上忍が恋人同士だって話?」
「あ、知ってるの?あたしたちも今始めて聞いてもうびっくり。なんだか知っている人たちの間では有名な話だったみたいよ!」
「知らなかったのはごく一部だったみたい」
「それにカカシ上忍ってすごーく嫉妬深いんですって。うずまき上忍にモーション掛ける人間には例え女でも容赦しないそうよー」
「もっと早くに知ってれば」
「なになに?」
「酷い目にあったんだから。きのうあたしたちがナルト上忍の彼女になりたいってはしゃいでたら、いつの間にかうしろにカカシ上忍がいて」
「絶対、最初から盗み聞きしてたわよね」
「〝だーれがだれの彼女になりたいって。言っとくけどうずまき上忍はもうオレのお手つきだよ、ざーんねんでした〟って言われたわ」
「カカシ上忍ってば目は笑ってるのに、すんごい怖いんだもん」
「あたし、ファンだったのに・・・あんな人だと思わなかったわ、幻滅・・・」
「あたしたちだって、うずまき上忍のカノジョになれるなんて思ってなかったわよ。ちょっと夢を見てただけなのに。大人気ないと思わない?」
それに!!と声を揃える先日のくの一集団。
「ついでにうずまき上忍がベットの中でどんだけ〝カワイイ〟か強制的に聞かされたわ」
「うそ・・・」
「まぢよ・・・」
「セ、セクハラ・・・・」
困った恋人の非常識な行いをうずまき上忍が知って、未曾有の大喧嘩に発展するまであと数日。その後、一ヶ月、はたけカカシ上忍が年下の綺麗な恋人に謝り倒す姿が見られたという。
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