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ちょこれいと本舗

ここはちょこさんと猫さんの経営するお店です。
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夏祭り企画

赤い金魚が消えた空
作成者 猫


 

 
 
 
 
ナルトがまだ火影邸で暮らしていた頃。当時、うずまきナルト5歳。ある日、使用人たちが浮き足だって、どこかへと出掛けていった。自分の世話が放り出されるのはよくあることだったのでさして疑問にも思わず、冷めたお膳の前でぺたんと座り込んでいたら、狗面を被った青年が入ってきた。音もなく現れた彼。
「カァシ…」
「今は狗だよ、ナルト」
「いにゅ?」
「おいで、ナルト。楽しいところに連れてってあげる」
「む…?」
「ほら、だっこしてあげるからこっちにおいで…?」
その日、ナルトは狗面の青年に誘拐された。
 
 
赤い金魚が消えた空
 



お囃子の音がトントン、ツクテン、小気味良いリズムを奏でている。今夜は年に一度の木の葉神宮祭。幼いながらもナルトは使用人たちはきっとここに出掛けたのだろうなと思った。
「……カァシ、こわい」
「大丈夫、誰もおまえだってわからないでしょ?」
お祭りの雰囲気に混じって、金髪の子供を腕に抱いてる銀髪の暗部は人目を集めた。初めての人混みに怯えるナルトをあやすようにカカシが答える。
事実ナルトの正体に気付く者はいなかったが、里では珍しい色彩に、道行く人々が振り返る。
さすがに目立つな…と苦笑したカカシは貸し衣装屋で暗部服から着物へと着替えることにした。カカシは着流しの着物。ナルトはカカシがどこからか持ってきた(が、色街の童子たちが着ているものに酷似している)子供用の浴衣を着せてもらってお面をちょこんと頭にのっけている。
「お面を買ってあげるよ」と言われ、ナルトが選んだお面はなんの皮肉か狐面。本当にこれでいいの?と尋ねたカカシにナルトはこくんと嬉しそうに頷いた。
ひらひら金魚の尾のような赤い帯。ナルトの着付けをしたのはカカシだった。
赤い帯を腰よりちょっと高い位置で、きゅっと締めてもらって可愛いね、と抱き上げられた。
ナルってば男の子なのに変なカァシ。
だけど、カカシに言われるとちょっとくすぐったい。
「カァシ、はやくはやくってば」
帯の所に真っ赤な風車を差して貰って、歩くたびに回る風車にナルトはすっかり夢中になった。
「ナルト」
蠱惑的に赤い尾を揺らめかせてカカシの前を歩こうとしたナルトだがすぐに後ろから抱き上げられる。
「転んだら危ないでしょ?」
「カァシ・・・」
「今は狗でしょナルト?」
「いにゅ」
「そうそう。さ、オレと
一緒に夜店を回ろうか?」
「・・・・・いぬといっしょ」
「気になったお店あったら教えてね?」
その頃のカカシはやたらとナルトに対して過保護で、ナルトに傷一つ付くことすら厭い嫌った。それというのも、ナルトを暴行虐待する輩が後を絶たないからで、いくらカカシが目を光らせてもナルトの肌にカカシの知らない痣が途絶えることがなかったせいである。
自分といる時だけでもかすり傷ひとつだって負わせたくないとカカシは思っていた。
「カァ・・・・いぬ、あれふしぎ」
「なに、綿飴食いたいの?」
「…………わたあめ?」
カカシが尋ねれば腕の中の子供がこてんと首を傾げる。
「あー、あの白くて雲みたいなヤツのこと」
「ふわふわ…」
「ククク、欲しいなら買ってあげるよ?」
「???」
また首を傾けた子供に苦笑して、カカシは財布を出すと店の主人から綿飴を受け取る。
「甘いから千切って食ってみな」
カカシに促されてナルトはおそるおそる綿飴を口に含み、目を見開く。
「あま…」
「おいしい、ナルト?」
「おいち。いぬもあーん」
「あーん。・・・・・・・・・うぇ、あま」
やけに熱い子供体温の手から、強制的に砂糖の塊を口に含む。拒否すればいいものを、無邪気な笑みを前に断ることも出来ず、死にそうな顔で、口の中に広がる甘さに耐える現職暗部の姿は、人殺しを生業にしている忍というよりは、普通の十代の青年のようで、結構笑えるものであったかもしれない。
「いぬーっ、あれなあに」
祭りの雰囲気にもだいぶ慣れてきたナルトはカカシの襟元を引っ張って「なに、なに」の質問責めを始めた。見るもの触れるもの、普通の子供にとってはごく当たり前の食べ物ですら、ナルトにとっては初めてで、買って与えてやれば、きゃらっと弾んだ笑い声を上げて喜んだ。
「いぬ、いぬ。あれ見てキラキラしてうってばっ」
「ビードロだよナルト。吹いてごらん音も綺麗なんだよ」
「ふー?」
繊細な造りのガラス細工に目を丸くさせ、カカシと夜店とを忙しなく見比べるナルト。「そう、そっとだよ」「あ、いぬ。ぺこって鳴ったー」「上手、上手」そんな子供の姿を見れただけでも、やはり連れてきて良かったとカカシは口の端に薄い笑みを浮かべた。
「いぬ、ナルあれ欲しい」
「あれ…?」
夜も深くなり、提灯を下げた子供たちの姿もまばらになってきた頃。ナルトが強請ったものにカカシは顔を曇らせた。ナルトが指差したのは色鮮やかな赤い金魚。
――生き物か。
「……だめ?」
「………」
「だめならいいのっ。ナル、ヘーキな…」
「いや、いいよ。取って上げる」
あれがしたいこれがしたいと言わない子供がやっと漏らした我儘。滅多に何かを欲しいと願わない子供の願いだからこそ叶えられることであれば出来うる限りきいてやりたい。
「どの金魚が欲しいの?」
「真っ赤なのがいいの、ナルの帯とお揃い!」
「わかった。取ったらおうちに帰らないといけない時間だけど、これが最後の店でいーい?」
「うん!」
「よし」
カカシはナルトを地面にそっと降ろすと袂を捲り上げて、紙が貼られた輪っかを手に取る。
「オヤジさん、これって紙が破けないように金魚をこの椀に入れればいいんでしょ?」
「金魚すくいは初めてかい、綺麗な顔の兄ちゃん。初心者なら子供用の椀貸してやるよ」
「・・・・・・ふうん?」
いや結構です、と断ってカカシは輪を水面につけると水の中で泳ぐ赤い金魚に狙いを定める。次の瞬間には椀の中に数匹の金魚が入っていた。
「―――は?」
「なんだ、案外簡単なんだな」
「いぬ、すごいってば!!」
綺麗な顔をした兄ちゃんとバカにした顔でカカシに喋りかけていた金魚すくい屋のオヤジは、ものの数秒で椀の中に山となった金魚を見て目を剥く。
「椀、もう10個ほど貸してもらえますか?」
冷ややかに微笑したカカシ。現役暗部部隊長の温度のない笑いに、鉢巻を巻いたオヤジの額にいやな汗が伝った。
その後、目にも止まらぬ速さで赤い金魚だけを掬う銀髪の青年の周りに黒山の人だかりが出来た。青年の傍で「いぬ、かっこいー!すごい!すごい!」と手を叩き褒める子供に「坊主、もう兄ちゃんのことを焚きつけるな!」とオヤジが止めに入ったのは売り物の金魚が半分以上掬い上げられた頃だ。
金魚の山となった椀に金魚すくいの親父が「兄ちゃん、店潰す気かい」と泣き叫んだとのは言うまでもないことだった。


「ナルト、本当に一匹だけで良かったの?」
「ん…」
「店の金魚、全部ナルトにプレゼントしたかったのに…あの親父めナルトに泣きつきやがって」
「いぬ、おじさんに意地悪しちゃめっよ」
遊び疲れてうとうとしてるナルトを抱え直し暗部服に戻ったカカシは屋根の上を跳躍する。
「ナル、うれしかった」
「ん…?」
「ナルのために赤いお魚いぬが取ってくれたから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「いぬ、ありがとう」
カカシの肩に顔を埋めながらナルトは目を細めた。ぴゅんぴゅん過ぎ去る景色の中、自分を包み込んでくれる青年の二の腕にある刺青が、まだ数年しか世界を映していないナルトの透明な碧玉に焼き付いた。

カカシは火影邸の中にあるナルト専用の部屋に降り立つ。窓辺に足を掛け、そっとナルトを床に降ろす。
「よし。火影さまの姿なし」
「じぃ?」
「なーんでもない」
カカシはナルトの帯を弛めてやりながら答える。
「苦しかった?」
「ううん」
ナルトの帯を解こうとしたカカシの手が止まる。この部屋に近付いてくる気配、このチャクラは。
「ナルト、これ自分で脱げる?」
「いぬの見てたからできう」
いい子だね、とカカシはナルトにしゃがみ込むと愛おしそうに金糸の髪を梳く。ただすべてが小さいというだけで、子供とは、特別いとけなくて、愛しい生き物に見えるから不思議だ。
「今日のことは誰にも秘密だよ?」
「…いぬ、ばいばい?」
「……ごめんね」
今度いつ会えるのかとナルトはけして聞かない。カカシが困ることを知っているから。
次は、いつ会えるかわからない二人の……――逢瀬。
カカシはまだ若いし、ナルトは幼い。お互いに脆く儚い関係。カカシはナルトの頬に伝う涙をそっと指で拭ってやった。
「カァシ…」
音もなくカカシが窓の外に跳躍して行くのを見送ると、入れ替わりに封印の施された扉が音を立てて開く。
「ナルトや」
「じぃ」
「そこに誰かおったのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・いない」
「おぬし、その格好はどうした…!?」
真っ赤な浴衣を着てポロポロと涙を零すナルトの姿に何事かとこの里の長たる火影は慌てて駆け寄る。
「・・・・・・・・・・なにがあったのじゃナルト」
「・・・・・・・・・・・・」
「なんで何も答えのじゃ」
口を引き結んだナルトは大好きな老人に問いかけられても何一つ答えなかった。だって約束だから。
ただ、一言漏らした言葉は。
「いぬ、行っちゃった」
「イヌじゃと!?」
ナルトはカカシとの約束を守ろうと幼いなりに精一杯努力しているようだったが、イヌ…の単語に老人は特徴から照らし合わせ該当するただ一人の人物の後ろ姿を思い浮かべた。
あやつ、今日は里外の警備任務を与えていたはずだが、と三代目のこめかみが痙攣し、舌を出して笑みを浮かべる暗部服の青年に、盛大に拳を振り落とした。――あくまで心の中でではあるが。
「あやつめ、また勝手な行動をしおって!」
ナルトはぐるぐると部屋の中を歩き周る老人を見上げて首を傾げた。
「じぃ、怒ってうってば?」
「なんじゃと?」
「ナル、お外に出たから怒ってうってば?」
胸を突かれるような思いで三代目は幼子の言葉を聞いた。当時、三代目は公務に追われほとんどナルトに構ってやる暇がなかった。ナルトの寂しそうな瞳を知っていたが見てみぬふりをするしかなく、すまないと思いつつも、使用人たちに世話をまかせっきりしがちだった。だがしかし彼とて、ナルトが可愛くないわけがないのである。
「ごめんなしゃいってば」
しゅんと頭を垂れるナルトに三代目は慌てて視線を合わせしゃがみ込む。
「おお…ナルト、ワシはおぬしを怒ってはおらんぞ。怖がらせてすまぬな」
「……ぢゃあナルの代わりにいぬのこと怒る?」
三代目は参ったと煙管を深々と吐いた。
「いぬ、怒るのダメ」
お願い、と碧球が潤む。
「ナル・・・・・・・・」
「ナルト、イヌのことも怒らん。約束じゃ」
「ほんと?」
「ジィは嘘は吐かん」
「じぃ、だいすきっ」
本来なら減俸もしくは厳罰ものの行いではあるが、約束をしてしまったものは仕方ない。
「ナルト、イヌとやらに変なことはされなかったかの」
「いぬはいつもナルに優しいのよ?」
「……………」
「わたあめでしょ、ラムネでしょ、リンゴ飴でしょ、いっぱい買ってもらったの~」
「…………ほぉお奴め。女にはろくに貢がんくせにナルトには財布の紐が随分と弛んでいたようぢゃの」
「いぬ、ナルにやさしい」
「………………」
本当におまえにだけだがの!以前、執務机にターゲットの生首を喜々として転がされた経験を持つ三代目はあの青年の極端さを思い出してこめかみをヒクつかせる。
「それでその金魚も奴か?」
テーブルの上にご丁寧にも金魚鉢付きで泳いでいる赤い魚。老人の質問に、頷きそうになったナルトはそこではっと我に返り口を両手で覆う。
「めっ!」
「どうしたナルト?」
「誰にも、ないしょなの」
「な、なんじゃと?」
「じぃにも言っちゃいけないの」
ナルってば今あぶなかった。ダメって言われたのに話しちゃうとこだった。だって、じぃのこと大好きだけど、いぬと約束した。いぬは特別なの。
「めーっなの」
「ナル・・・・・・?」
「いぬとナルだけの秘密なんだってば」
しぃーっ、と人差し指を口に当てた子供。寂しそうな、だけど嬉しそうな半笑い。
次の日の朝、夜店でカカシがとってくれた金魚は、白い腹を出して浮いていた。夜店の金魚の命は儚い。ナルトは小さな手で赤い魚をそっと掬い、土に埋めた。
―――もしかしたらカカシに結んで貰った赤い帯を解いた時が祭りの終わりだったのかもしれない。
一夜だけの鮮やかな夢。子供の心に何を残したのかわからない。
泡影と共に消えた夏の思い出。

 
 
 






 


14年後の二人に続く。
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↓店主たちにささやかなチップをあげる。
店主:
ちょこ&猫
略歴:
ひょんなことから出会った一人と一匹。かなり仲が良いらしい。

店主1号 ちょこ
本店: blue shooting star

店主2号 猫
本店: 空気猫
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