ちょこれいと本舗
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twinkle×twinkle 1
10月10日。
ちょっと前まで“体育の日”とされていた、カカシの恋猫である元気な子猫の誕生日に相応しい、なんだか元気な感じにさせる、秋の日。
空までも彼の誕生日をお祝いするかのごとく、どこまでも高く澄んでいて、おあつらえに、猫には嬉しい鰯の群れの形をした雲。
今日は朝からお日様も機嫌が良くて、外を歩くカカシの姿をキラキラと眩しく輝かせてくれる。
そんなカカシの首には、可愛い恋猫と色違いでお揃いの黒い首輪と、それに重ねるように、緑とオレンジの綺麗な色の紐を編み込んだミサンガが絡められている。
大猫(おとな)っぽいカカシには少し不似合いかと思われる、ポップでキュウトな色合いだが、そこはそれ、つい一ヶ月ほど前の誕生日に、恋猫がプレゼントしてくれたものだから、仕方ない。
むしろ、その恋猫にこそ似合いそうなミサンガは、見る人(猫?)に贈り主を連想させて、ナルトの友人や知り合いに聞かれるたびに、カカシの独占欲はおおいに満足させられた。
多少(?)はちゃめちゃなやり方ではあったものの、可愛い恋猫が決死の覚悟で手に入れてくれたミサンガ……そんな宝物を見せびらかしながら、堂々と道をゆくカカシの顔ときたら、さぞかし誇らし気に違いない、そう思いきや……不機嫌度MAX。
その表情の険しさといったら、「ねこちゃんだ~」とかなんとか雄叫びをあげながら無邪気に駆け寄ってきた人間の子どもが、カカシの顔を覗き込むや否や、「ナマハゲ!!!!」と泣き叫びながら走り去るほど。
もちろん、カカシとて好き好んで東北地方の伝統を体言しているわけじゃない。
性格はともかく容姿は抜群との誉れ高いカカシが、ちょっぴり(?)怖いけど実は縁起が良いといわれる鬼のような様相になってしまったのには、恋人を持った経験のある人(猫も)なら誰もが納得する、悲しい理由があった。
可愛い恋猫の誕生日という良き日。
当の恋猫と喧嘩してしまったのである……。
今朝のカカシは、自他ともに認めるねぼ助な彼にしては珍しく、ナルトよりも早くお日様が登ると同時に飛び起きた。
一ヶ月も前から考えていたある計画を実行するためだ。
自分の誕生日にナルトがくれた、“精一杯”。ミサンガをナルトからプレゼントされたあの瞬間から、カカシはずっと自分にできる“精一杯”を考えていた。
あの時の自分と同じ喜びをナルトにもあげたい。ナルトに負けない“精一杯”を自分もプレゼントしたい。
カカシはこれまで生きてきた中で、一度も無いくらいに考えて考えて考え抜いた末、昨夜漸く決定した“精一杯”。
それは、“ナルトを海に連れていくこと”だった。
イルカのアパートから海までは、決して近い距離では無い。しかし、カカシは一度だけ海に行ったことがあった。
こっそり、人間が乗る電車という乗り物に乗り込み、なんとかいう駅で降りたら、そこから海はあっという間。魚みたいな不思議な香りを辿り、ながーい石段を降りたら、ナルトの瞳みたいに透き通った碧い海と、どこまでも続く白い砂浜。
ナルトが好きそうな綺麗な石もたくさん転がっているし、ナルトが望むならヤドカリだってカモメだってプレゼントしてあげる。
はしゃぐ恋猫の顔を想像するだけで、カカシの顔は自然と弛んでしまうのだった。
「ナァルト、朝だよ。起きて」
可愛いピンクの鼻先にちゅっと口付けると、子猫の目蓋がぴくぴく動いて、やがてカカシの大好きな、海よりも空よりも綺麗な碧い宝石が現れる。
「にゃ……カカシせんせ……」
「おはよ、ナルト」
カカシが改めて、正しいオハヨウのキスを恋猫の唇に贈ろうと思った瞬間。
「や、やべぇってばよっ!!!」
「あだ!!!!!」
さっきまで可愛らしく寝惚けていた子猫が、すごい勢いで飛び起きた。
なにしろ勢いのあまり、顔を寄せていたカカシの体が後方に吹っ飛んだくらいだ。
「……なに……?どうしたの」
「遅刻しちゃうってばー!!!」
言うが早いか、ナルトはあっというまに身繕いを終わらせて、イルカが用意したキャットフードも一気に平らげてしまった。
カカシでさえ目を回してしまいそうなスピードだ。
「今日はおれの誕生日だからって、サクラちゃんやサスケや……みんながパーティー開いてくれるんだって。おれってば約束してたのに、寝坊しちゃったってばよ~~」
「え?え??」
今にも窓から飛び出していきそうなナルトを、辛うじて捕まえるのに成功すると、カカシは予想外な恋猫の台詞に唖然としつつ
「ちょ、ちょっと待ってよ。お前、今日はおれと一緒にいないわけ?」
「あっ、でも先生とは……」
「お前、……恋猫って意味ちゃんとわかってる?」
自分の声が次第に低くなっていくのがカカシにもわかった。
ナルトがびっくりした顔でカカシを見上げている。
しかし、カカシにはもう険悪になっていく自分の気持ちを止めることができなかった。
「おれはお前の誕生日、一緒に過ごすことばかり考えてたのに、お前はそうじゃなかったんだ」
「せ、せんせ」
「お前、ほんとにおれのこと好きなわけ?」
「あーあ、なんであんなこと言っちゃったんだろ……」
せっかくの誕生日なのに。いつものことなんだから、笑って許してやればよかったのに。
そう思う反面、“ナルトは本当に自分のことを好きなのか”という不安も消えない。
結局、カカシはさっきの一言を言い捨てた後、ナルトの横をすり抜けるようにして家から出てきてしまった。
後悔と、自己嫌悪と、不安と、心配と。
苦いものばかり背負ってどしどしと道をゆくカカシ。
今が不幸のどんぞこだと思っていたのに、前方から更なる災厄がやってきて、カカシはうんざりと眉間を寄せた。
「…………よぉ、“オレ”」
まさしく、人間版の“オレ”である。
人間版のナルトを手に入れて、なおかつカカシのナルトにちょっかいを出す、いけすかない人間。
カカシの機嫌の悪さも最高潮といったところ。つい人間版の“オレ”を睨みつけてしまうのは、半分はやつあたりかもしれない。
一人と一匹の間に青白い炎が燃え上がった。